支店の絶対的権力者、支店長に「殺せっ!」と命ぜられた入社1年目の夏、札幌・すすきのの夜。ワタクシ自慢のすべらない話。
勤勉なワタクシは、
もう一度高校に行けるだけ浪人をして念願の東京にある大学に入ったため、
社会に出るのも3年遅れ。
「自分がしたことが世の中に残るモノやコトに携わる仕事がしたい!」
という思いがあり、 不動産、建設、広告代理店を中心に就職活動を行う。
母一人子一人の二人家族のため、いつかは福岡に戻りたいという思いで、
福岡に支店のある会社を中心に就職先を選び、
就職活動して初めて知った社名だったが、週休二日で名の知れた会社と変わらない給与で、
入社当時、北は札幌から南は福岡まで支店や営業所がある不動産会社に採用が決まる。
最終面接時、
「この会社には福岡支店がありますが、いつか福岡支店に転勤することはできるんですよね?」
『いや、うちの会社関東と関西で採用分けてるから、福岡への異動はないね』
「実は母一人子一人の家庭なので、いつかは戻ってあげたいんですよね」
『そんな事情があるのであれば、考えないといけないね。その代わり最初の赴任地はどこになっても大丈夫?』
「その辺りも考慮してご採用いただけるのであれば、喜んでどこにでも赴任します!」
といったやりとりを採用担当の方と行い、東京から南下したかった自分の思いとは裏腹に、
最初の赴任地は初の東京より北に足を踏み入れることとなる、仙台に決まる。
街づくりなどの部署に携わりたかったのだが、仙台支店にはそのような部署はなく、
営業社員としてマンション販売に携わることに。
その会社は前述通り、就職活動時に初めて知った会社であったが、
週休二日で名の知れた大手と遜色のない給与、
しかも同期入社が約300人もいるという会社で、
「どんだけパワフルに成長してくのだろう!」
と、社会に出るのが遅くなった分、働くということに大きな期待と不安を抱きながら、
いざ仙台へ。
入社時の会社の部署案内では、
マンション事業部はモデルルームにご来場されたお客様の接客を行うのが主な仕事。
と聞かされていたのが見事に裏切られ、確かにその業務もあるのだが、
それは係長クラスの仕事。
一般社員はモデルルームにご来場してくださるお客様を、
ひたすら飛び込み営業で見つけることが主たる業務。
営業会社ということもあり、パワフルな人達もモチロン多かったが、
パワフルといよりパワハラな上司が多く、今でいうブラックな感じ。
その最たる例が支店の絶対的権力者、支店長。
この方昔は柔道で鍛え学生運動華やかなりし頃、
自然と前線で官憲勢力と戦っていたという武勇伝の持ち主。
ワタクシと同郷の福岡県人ということもあり、
九州は福岡から遠く離れた仙台の地で、
まさか同郷の新人が入ってくるとは思われてなかったようで、
望んでなくとも体育会的“かわいがり” を受ける立場に。
ご自身は、体育会系特有の負けず嫌い気質を最大限に生かし、
素晴らしい営業成績を上げてこられたため、
これまた昔の体育会系特有な、
「オレが出来たやり方でオマエらも同じように成果を上げられる!」
と、オレ様理論のスパルタ営業を叩き込まれる。
不動産営業という特性上、モデルルームへのお客様のご案内は週末がメインとなるため、
週初めは支店長はじめ、係長たちも穏やかな雰囲気。
ところが週末が近づき、モデルルームへの案内件数が少ない状態のままだと、
支店長の頭の上に湯気が立ち角が生え、
金曜夕方の定期報告時に係長が「案内ありません」などと連絡しようものなら、
「案内出すまで社員返さんでイイからな!」
と叫び、受話器を壊さんばかりに叩きつけて切る始末。
実際、ワタクシが入社する数年前までは、年に何回か電話が壊れていたとのこと。
朝・昼・晩とモデルルーム周辺の賃貸住宅をメインに飛び込み営業を行っており、
当時は訪問営業に対する規制などもなかったため、
よっぽど案内を獲得できない時には、
当たり前感満載に23時近くまで飛び込み営業をすることも。
当然お客様からは「何時だと思ってんだ!」と怒られ、
案内がないと上司からも「なに遊んでんだ!!」と怒られ鍛えられたおかげで、
なんとか2ヶ月目くらいで最初のご契約をいただく。
同期も順調に契約を上げていき完売までの道筋が見えたところで、
入社して2棟目となる物件の販売時期も決まり、札幌の物件を担当することに。
当時その会社は、札幌に営業所はあるものの用地取得の社員がいるのみで、
仙台支店の社員が営業を管轄しており、
またまた自分の思いとは裏腹についに最北の地、北海道にまで北上することになった、
入社1年目の夏 。
先輩社員たちから、
「札幌出張になったら出張手当は出るし、食べ物もウマいし、なんせ女の子が可愛いいっ!」
と聞かされ、意気揚々と札幌へ乗り込む。
長期の出張ということもあるため、
初日に行われた販売物件のオリエンテーションのあとに、
北のウマい海の幸をシコタマ食べられる居酒屋で、
懇親と早期完売に向けての思いを一つにするための決起会が開催される。
長期出張の決起会ということもあり、会社が奮発して豪勢なコース料理を予約してくれて、
その見た目でも美味しい料理たちに舌鼓を打ちながら、
酒のチカラも働きみんな陽気に語らいつつも、
ここまでは酒が進みすぎて上司や先輩に無礼を働くものも現れず、
メインの鯛の活き造りがやってきて、ワイワイとみんなのテンションもMAXに。
活き造りの鯛が口をパクつかせ、尻尾をピクつかせるのを見て、
社員たちは箸や指で鯛のお頭や尻尾をツンツンしながら盛り上がり、
その盛り上がりにつられ支店長も一緒になって鯛の口元をツンツン。
その瞬間空気を読め無い活き造りの鯛クンは、支店長の指をガブリとひと噛み。
その場はシーンと静まりかえり支店長の舌打ちのみが響く。
自分だけ噛まれたことがよほど悔しかったのか恥ずかしかったのか、
噛まれた指が相当に痛かったのか、怒りの収まらない支店長が大声で発した一言、
『殺せぇーーーーー!!!』
と……。
「いやいや支店長、むしろ死にたてピチピチですやん!」
とツッコミを入れることも笑うこともできず、
かといって絶対権力者である支店長の業務命令に従いたくとも、
物理的にデキるはずもなく、その場はビミョーな空気に。
早期完売を目指すために思いを一つにして、
営業社員の懇親を深め和気藹々と楽しむための決起会が、鯛クンの一撃で尻すぼみに。
最後は、楽しむ喜びに欠ける『欠喜会』となってしまいました。
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